高齢社会と言われる現代において、認知症は家族の問題としても社会の問題としても、対応の難しさを抱えたまま拡大し続けています。
まだ治癒する薬も見つかっていないので、予防対策をしっかりして発症しないようにすることが重要です。
予防するにはどうすればよいのか。
いろいろな予防方法が紹介されてはいますが、まずは「認知症を知る」ということが重要ではないかと考えました。
認知症がどのような病気かを知ることで、ご自身の場合であっても、大事なご家族についてでも、予防に意識が向きやすくなるのではないだろうかと。
そのためには認知症の現実を知る機会が重要だと思います。
そして、認知症の現実を強く感じているのは、ご家族など介護している方です。
介護している方が認知症の現実を一番近くで見ています。
そこで認知症のご家族を介護する方に手記を募集しましたところ、数名からお寄せいただくことができました。
認知症介護の現実を紹介することが、認知症を予防することに繋がればという思いで、これから数回にわたってご紹介していこうと思います。
「80代前半の祖母を父と2人で介護中」Mさん(30代前半)
現在、認知症を患っている80代前半の祖母を、在宅で介護しています。
介護の主体は60代前半の父ですが、孫である私(30代前半)も必要に応じて手を貸しながら祖母の面倒を見ています。
異常な行動
祖母の異変を感じたのは、8年くらい前になるでしょうか。
その頃の祖母は、自分で身の回りのことができていましたが、時々変な行動をすることに気が付きました。
例えば、冷蔵庫の扉を開けて、中をぼんやり眺めていることが度々ありました。
私が台所に行くと、気配を感じてすぐに扉を閉めるのですが、何をしようとしていたのか尋ねても、明確な答えは返ってきません。
また、鍋をよく焦がすようにもなりました。鍋をコンロにかけたままで他のことを始めて、そのまま鍋をかけていることを忘れてしまうようでした。
この頃の私たち家族は、祖母が認知症を発症するとは夢にも思っていませんでした。
今になって思えば、これが認知症の初期症状だったのだと思います。
もしかすると、この時点で医師の診察などを受けていれば、病気の進行を遅らせることができたのかも知れません。
介護のはじまり
祖母の異常な行動は、その後も無くなることはありませんでした。
それどころか、症状はさらに悪い方へと向かっていきました。
私は祖母の料理を食べなかったので気が付かなかったのですが、父によると料理もうまく作れなくなっていたそうです。
思い返せば、パックに入った大きな豆腐をそのまま醤油をかけて食べていて、不思議に思ったこともありました。
そして決定的な事件が起こります。
買い物に出かけた祖母が、お店の商品を自分のバッグに入れたまま、支払いを忘れてお店を出てしまい、警察のお世話になることになったのです。
この話は後日父に聞いたのですが、この事件がきっかけとなって、父は祖母の介護をするようになりました。
病状の進行
祖母の認知症の症状は、日々ゆっくりと、また時には急激に進行していきました。
はじめの頃は食事の準備をするだけで、他のことは全て自分でできていました。
しかし、段々と排泄のコントロールがうまくできなくなり、介護パンツを着用するようになりました。
介護認定を受けていたので、補助を受けて祖母の部屋にポータブルトイレも設置しました。
自主的に行動することが少なくなって、表情も無表情なことが多くなっていきました。
祖母の認知症は、脳血管性の認知症です。
脳の血管が詰まって、それが認知症を引き起こしています。
脳のさまざまな場所で血管が詰まり、詰まる場所によっては一気に症状が進行します。
現在の祖母
何度も入退院を繰り返した祖母は、現在完全に寝たきりの状態になっています。
要介護度は最も高い5で、食事から排泄まで全てで介護を必要とする状態です。
食事は口から食べることが困難になり、医師にすすめられて胃ろうを造設しました。
呼びかけに対する反応も年々弱まってきて、意思の疎通も難しくなりました。
父が仕事を辞めて献身的に介護をしていることと、週に2度のデイサービス、週に1度の訪問介護に支えられて、何とか在宅での介護が成り立っています。
しかし、今後のことを考えると、父がいつまで祖母の面倒を看られるかや、父に万一のことがあった場合の祖母の介護など、悩みは尽きません。